泉輪 平成25年12月



和食の心


ほんの少し前に十一月の「お十夜の号」を発行したと思っておりましたら、もう「越年の号」になりました。本当に一年は早いものです。皆様も慌ただしくお過ごしのことかと存じます。 そんな折、先日ユネスコ会議に於きまして、日本の「和食」が世界文化遺産として登録されました。「和食」と耳にし、あまりに身近過ぎて本当に意外でしたが、これを機に意識して改めて和食という事を考えた方も多いのではないでしょうか。 あえて難しく表現致しますと、日本になじみのある食材を用いて、日本風土の中で独自に発達した日本料理の総称名が「和食」となるようです。

また、ユネスコの事前審査に記された文面では、米、野菜、魚が多くの場合基本素材とされ、寿司、天ぷら、刺身、蕎麦等、日本語がそのまま料理名として海外で使われている事を大きく取り上げ、世界中に日本料理の和食文化が広がっていることを示しております。

また、和食の分類に当てはまるかどうか定かではありませんが、海外から取り入れられたカレーライスやオムライスなど洋食文化圏の食べ物でも日本で独自に発達をし、本場本国とは明らかな違いを見せ定着しております。今では海外の食材は簡単に手に入りますが、一昔前ではそうはいかず、何とか身の回りのもので工夫し、日本人に親しむ味にアレンジさせることも、日本人の生活の知恵なのでしょう。

ではなぜ、今「和食」が取り上げられたのでしょうか。そもそもユネスコには、ユネスコ憲章文があり、その文頭に「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」とあります。「築かなければならない」心の中の平和とは、いったい何であるかを、教育・科学・文化等あらゆる情報分野で探し求めるのが、ユネスコの活動の目的と認められております。

それに基づいて考えてみますと、日本人は「和食」を料理や調理法だけでなく「いただきます」「ごちそうさま」や「もったいない」といった言葉から分かるように、食事をすることすなわち動植物の命を頂くことだと、十分に理解した上でその命を頂戴したから、私どもは生きている、逆を申せば動植物により生かされているという感謝の念が発生しております。

だから料理する者がその精神を尊重し、その素材本来の味を大切にし、素材を生かす料理をするのです。また料理に付随し、季節感を大切にし、旬のものを重んじる事柄も含めた「自然の尊重という日本人の精神を表現した食に関する社会的慣習」を普段の生活に取り入れております。その典型的な例が、年末年始における「餅つき」や「おせち料理」です。おせちは、地域や風習により大いに料理が異なり、どのご家庭でも特にその継承を大切にしてきました。

しかし一方で、保存方法が充実してきた為に既成の品も多数販売され、加えて店舗の休日無し営業などから、おせち料理を余り作らなくなってきました。また現在は、食の欧米化が進み魚中心から肉中心となり、それに伴い成人病増加傾向にあるといわれております。更に、多様で手軽な食材が米離れにも拍車をかけているようで、ユネスコの世界文化遺産という「和食」と、現実の我々の食事とが隔たりが出来ているのは否めません。

それ故「食育(しょくいく)」という以前はなかった取り組みを立ち上げ、食の原点の見直しがされているのです。ひと手間もふた手間もかかる和食ですが、本来どこのご家庭でも当たり前に見られた食卓を、世界の人が評価しているのですから、動植物の命を頂くことを十分に理解し、健康と精神の鍛練の為に、ごくごく当たり前の食事に心がけてみましょう。

それがユネスコ憲章文の「人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」という言葉の深い意味を理解させてくれます。心のこもった食事だからこそ、日本人の日本人たる心が育つことなのです。

その日本人の心こそ、平和を愛し、互いを尊重し合い、次の世代へ残す最も大切な「遺産」なのではないでしょうか。

合掌
肉大好き反省の輝空談