泉輪 令和元年11月



祈りの力


平成から令和に時代が移り、天皇即位礼が執り行われ、新しい時代の幕開けとなりました。
平成の三十有余年は、皆様におかれましてどのような歴史をご自身に刻まれたでしょうか。
上皇陛下と上皇后様は平成の天皇時代を「祈りの天皇」と呼ばれていました。その背景には、終戦を迎えた昭和という時代を引き継いだ平成に、二度と戦争に見舞われない時代であることを願い続けてこられたからということもあるでしょう。

更に平成の時代に多くの震災が起こり、被害に見舞われた方へ寄り添い祈られたからだとも推察致しております。
平成の主な震災と致しまして、気象庁や内閣府が命名した災害は、平成三年の雲仙普賢岳噴火に始まり、平成七年一月の阪神・淡路大震災、平成二十三年三月には戦後最大の未曽有の被害をもたらした東日本大震災が勃発し、記憶に新しいものと致しましては、平成二十八年の熊本地震、平成二十九年七月の九州北部豪雨、平成三十年七月の西日本豪雨と平成の三十年余りの間に三十の災害が起こっているのです。
国土交通省にはさらに小規模で被害の少ないものや、自然災害はもっと多く記録が残されており、その災害が起こるたびに、上皇陛下と上皇后様はその被災者へ祈りを捧げてこられていたのです。

また、多くの戦地慰霊の旅も続けられておられました。天皇退位のおことばにも、「沖縄の人々が耐え続けた犠牲に心を寄せていくとの私どもの思いは、これからも変わることはありません。戦後の平和と繁栄がこのような多くの犠牲と国民のたゆみない努力によって築かれたものであることを忘れず、平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵(あんど)しています」と、平和が続いていることへの率直な心情を吐露(とろ)されておられました。 

そんな祈りの平成が終わりを迎え、晴れやかにそして、うららかに令和を迎えるものと誰もが思っていました。
またそれを象徴するかのように今年ワールドカップが開催され、さきがけの女子バレーにおいて、後半戦に入る頃には、格上の国々を打破する姿に歓喜の渦が巻きあがりました。
女子バレーは初代東京オリンピック開催時の東洋の魔女が世界を制した時代から、長きにわたり低迷しておりました。
スポーツにおきましては、身長はこの上ない武器で、特にバレーでは、日本人の平均身長では厳しい結果を強いられてきていたのです。
それが近年、何を食べたのか、どんなDNAがあるのか、小さな体、日本人の一昔前のイメージを吹き飛ばす、引けを取らない大型選手が誕生してきたのです。

また、日本人の得意な緻密な研究は、運動力学に加え、ウエアーの繊維一本に至るまで研究開発されていきました。
多方面から培われた英智が女子バレーの世界に旋風を沸き起こしたのです。その感動が覚めることなく男子バレーにバトンタッチされ、強豪国を次々に破る快挙に日本中が愉悦極まりなくエネルギーが満ち溢れました。

そして数ある競技の中、またもやラグビーが日本中を熱くしてくれたのです。その開催地が我が国日本であったことも後押しとなり、人々の思いは高鳴りを抑えることが出来ませんでした。
その思いは選手も同じで、熱戦に続く熱戦で決勝トーナメントに出場できることは、当初誰もが予測だにもしていなかったのです。

しかも試合を一戦一戦終えるたびに完成度を増すチームプレーに、今までラグビーという競技に興味のなかった人たちでさえ、テレビに釘付けさせられたのです。

スポーツという平和競技が人々に国を超えて感動をもたらす姿に、自然に令和の誕生の喜びを重ね合わせていくことは当然の成り行きのようになっておりました。

しかし、それがまさかの真逆の事態が起こったのでございます。
台風十五号と十九号が日本列島は直撃し、東日本に甚大な被害をもたらしてしまいました。
華やかさはいっぺんに吹き飛び、祝賀ムードに沸いた皇室も、天皇即位祝賀パレード(祝賀御礼の儀)を延期せざるを得なかったのです。

それもそのはずで、ご公務と並行し、天皇陛下はライフワークとして学生時代から「水問題」をご研究されていたのです。

天皇陛下の論文には、古来より、人類は水を求めて世界を移動してきた経緯に加え、水は大切な資源である一方、災害や貧困、さらに紛争をもたらす事実を訴えられてこられました。
天皇陛下のご研究では、そうした人間と水の関係を地球規模でとらえ、限られた水をどのいうに利用していくかを考察されているのです。

そして、水の力によるエネルギーが生活の利便をもたらすエコエネルギーであるとともに、ひとたび災害が起こると防止することは困難なゆえに、防災や減災する大切さを訴えられておられました。

その水のご研究をされておられる天皇陛下だからこそ、水害に見舞われた人への気持ちを思い、取り止めの選択さたことは我々一般の者でも、苦渋のご決断であり当然のものだったと拝察致しております。

これから復興に向けて、更なるご苦労が被災地の皆様を待ち受けておられるでしょう。
皆、心を共にし、天皇、皇后、上皇、上皇后の祈りの声を聞き、ともに携えなければならないと思います。

前回のいずみ九月秋彼岸号に、我が家の新しい家族の犬の話を掲載させて頂きましたが、この犬も昨年の西日本豪雨の被災犬です。
土砂とともに山に流され、エサを求めてさ迷うさ中、イノシシの罠に前足を奪われ、それでも生き抜いてくれていました。犬と人の命を比べることは人々にとっておこがましいことかもしれませんが、被災された方には、今は絶望しかないでしょうし、死んだほうがましとお思いになることも一度や二度ではないくらい愁いた気持ちになられるでしょう。
でも、夜明けの来ない夜はありません。こんな薄っぺらなありきたりの言葉しかお伝えはできませんが、どうぞ心しっかりと生き抜いてください。
いつか、本当にいつか、夜明けの朝日か心にしみわたる日を迎えられると共に信じていきましょう。

ワールドカップの各国のラグビー選手も、試合合間にボランティア活動をして下さった思いは、今も日本の被災者の皆様の心の中に居て、共に復興を願い続けておられます。

復興を願い合掌
輝空談