心の雫
温暖化の昨今、春の訪れは年々早くなっております。
今年も、二月の段階でポカポカ陽気を楽しむ日が何度かございました。
本来ならば、寒さヨさようなら!、春の陽気に万歳!と、なるはずでしたが、世界中を震撼させた「新型コロナウイルス」の発生により、状況は一変致しました。
日々増え続ける感染者と感染地域に加え、重症化による死亡件数も増えてきました。
感染力や重症化はインフルエンザよりも弱いとのことですが、特効薬がなく、予防薬も無いとのことで、我々一般市民は、息をひそめて嵐が過ぎ去るのを待つだけかと、不安だけが増していきました。
不安はいつの時でも、デマにより情報が誇張され、更なる不安を生み出します。
その不安による今回の典型的な人間行動の例が、マスク、消毒薬の不足に加え、トイレットペーパー
やティッシュペーパーの買い占め行動です。
これは、間違った情報を信じて買いに行く人と、これは間違った情報だと知っていても、デマを信じた人が買い占めていくので、結果無くなるからと、デマ情報を信じていない人も買いあさるのです。
この現象は、人々の群集心理に加え、心の不安をかき立てられ、居てもたってもいられない時に人間がとる典型的な行為だそうです。
特に、その傾向が強く表れるのが日本人だそうです。
人間の遺伝子には、不安遺伝子というものがいくつかあるそうです。
医学のことは私にはよく分かりませんが、様々な情報によりますと、どの学者からも「不安遺伝子」が、日本人は他国の人よりも多くあると研究結果が出ています。
例えば日本人とアメリカ人では、不安遺伝子を持つ割合は、1つの不安遺伝子をもつ人が、アメリカ人では全体の67%に対し、日本人は97%、不安遺伝子を2本以上もっている人は、アメリカ人で19パーセントに対し日本人は67%と、いずれも日本人の方が不安遺伝子を多く持っている民族ということを示しているのです。
この欧米人と日本人との差が生まれた背景には、島国にて資源が少ないからだとか、震災が多い国だからだとか、はたまた武士道が根底にあり失敗すれば切腹で自害しなければならない強迫観念からだと、様々な諸説が出ているようです。
その日本人特有の民族性に加え、仕事やお金、家族友人との人間関係等、人生そのものが不安を生む現代に我々は生きているのです。
逆を申せば、不安を一つも抱えていない人は誰もいないということです。
また、日本人が不安遺伝子をたくさん持っている民族家のプラスの面もございます。
これがあったら便利だとか、こうした方が使いやすいと物事に工夫をすることが上手な民族だともいわれているのです。
食品の切り口に分かりやすく印がしてあったり、小分けされている使いっきりの物が豊富なのも日本製と言われています。
日本人の不安遺伝子は、失敗や欠点、はたまた苦労を克服したいという努力の考えも同時に育て、結果商品開発に役に立っているとのことです。
とは申しましても、出来る事なら無くしたい不安です。
何か解決策はないかと様々な学者が今でも日々研究がなされているようです。
その研究分野は、「脳科学や心理学」といった医学の世界と私どもが布教しております「宗教」に分かれます。
「脳科学や心理学」では、適宜な運動をし、体の疲労から他をあまり考えないようにする誰でも取り組める簡単な方法から、薬や専門のカウンセリングを受け、不安に感じる要素を少なくする専門方法等があるようです。
また、宗教の方面では、宗教と申しましても、他宗教の教義はその道の方にご指示願うと致しまして、私ども仏教で、特にその中の我が宗派、西山浄土宗では法然上人の言葉を支えに生きております。
法然上人は、生きること自体が苦の連続で、人生そのものが苦だと説かれておられます。
逃れられない苦だから逃げようとすると、苦が駆け寄ってくる強迫観念が生まれ、それが不安を増長するのだと説かれました。
だからこそ、苦は逃げることなく受け入れ、心を鎮めることに専念して見て下さい。
苦を受け入れた瞬間から、苦のご縁があったからこそ学び成長させられたことがあったと気づかされる経験を誰もがしているのではないでしょうか。
今、自分に降りかかる全ての出来事、全ての人は自分を育てる大事な出来事であり、大事な出会いと学ぶことが大切です。
この考えは、浄土の精神の根底に培われていることです。
今、目の前ではびこっている「新型コロナウイルス」を、仏教をもって封じ込めることは出来ません。
ただそれに伴う不安は浄土根底の精神に気づかされ、お念仏することにより、冷静さと落ち着きをもたらせ、慈悲の雫を生むものだと信じてやみません。
合掌
輝空談