泉輪 令和2年12月



音に出す言葉の力


一行の詩が少年たちを変えた 奈良少年刑務所の少年たちに月に一度、半年間行なわれる「絵本と詩の教室」の講師を務めることになった作家の寮美千子さん。少年刑務所の少年たちは、詩を書くことになりました。そこで起きた反応は・・・・・

ある少年は、
「金色 金色は空にちりばめられた星 金色は夜つばさをひろげはばたくツル 金色は高くひびく鈴の音 ぼくは金色がいちばん好きだ」
受講生はみんなしゃべるのが苦手で、これを書いたのも言葉数の少ない少年でした。
彼からこんなポエティックな詩が生まれてくるとは思いもしませんでした。鶴も鈴も、色そのものではないのに、それを金色と感じる彼の気持ちに胸を打たれました。

また、ある少年は、 「黒 ぼくは黒色が好きです 男っぽくて カッコイイ色だと思います 黒は ふしぎな色です 人に見つからない色 目に見えない 闇の色です 少し さみしい色だなと思いました だけど 星空の黒はきれいで さみしくない色です」この少年は育児放棄され、コンビニの破棄弁当を盗んで食べるような生活をしていました。
そういう子が、人に見つからない闇に紛れて、ほっとしているのだけど、同時に寂しく感じている。そして見上げた夜空はきれいだった 彼がどんな罪を犯したにせよ、彼の心の中にはこういう思いがあったのです。授業中、いったい何度泣かされそうになったことか。こうした授業を二年半ほど繰り返し、

5期目となった授業で、ある少年がたった一行の詩を書きました。

「くも 空が青いから白をえらんだのです」

なんて美しい詩だろう。そう思いました。授業では、自分で書いた詩を読んでもらい、聞いている仲間が感想を言い合うのですが、その少年は、薬物中毒の後遺症があってろれつがうまく回らず、自分の詩を大きな声で読むことができませんでした。
「もう一度、みんなに聞こえるようにゆっくり大きな声で読んでくれないかな」と言っても、自信がないせいか、早口になってしまう。何度かお願いしたら、ものすごくがんばって一生懸命読んでくれて、仲間たちもみんな大きな拍手を送りました。
その彼が、「先生、僕、話したいことがあるんですが、いいですか」と言うのです。最初の一言はこうでした。

「僕のお母さんは、今年で七回忌です」彼の話はどもったりつっかえたりでしたが、要約すると、お母さんは体が弱く、お父さんがいつもお母さんを殴っていた。
彼は小さくてお母さんを守ることができず、お母さんは病院で亡くなったのですが、亡くなる前に「つらくなったら空を見てね。お母さんはそこにいるから」と言い残したそうです。
「だから僕はお母さんのことを思って、お母さんの気持ちになって、この詩を書きました」空が青いから、あなたによく見えるように、私は真っ白になって空に浮かんでいますからね、という母の気持ちになって書いたのかと思うと、胸がいっぱいになりました。
ところが、まだ続くのです。彼がそう言って着席したら、他の受講生たちが挙手して次々に感想を言い始めました。「僕は、○○君はこの詩を書いただけで親孝行をやったと思います」「僕は、○○君のお母さんはきっと雲みたいに真っ白で清らかな人だったんじゃないかなと思いました」「○○君のお母さんはきっと雲みたいにふわふわで、やわらかくて、優しい人だったんじゃないかなと思います」どの子もこの子もなんていい子なんだろう。
それなのに、いったいどんな罪を犯してここにいるのか。こんなに優しい気持ちを持っているのに、どうして、何があなたたちに罪を犯せたのか。
そう思っていたら、また別の少年がその子は自分の犯した罪が大き過ぎて、自傷行為が止まらず、いつも真っ暗な表情をして、今までろくに発言もしたことがなかったのです。その彼が、すごく勢い込んで、挙手をしました。「僕は、お母さんを知りません!でも、この詩を読んで空を見上げたら、お母さんに会えるような気がしてきました!」 みんな優しかった。(原文省略)

犯罪に至る背景には、一言では語りえない要因が積み重なってのことだろうと思います。
好きで犯罪に手を染める人は誰もいません。そして実際に世の中に自分の境遇に、もがき苦しみながら生きている人が居ることも忘れてはなりません。
犯罪は決して許されることではありません。だから、犯してしまった過去は変えられないのです。悔やんでも泣き叫んでも消し去ることは出来ません。でも、やり直すことは出来ます。
誰にでもそのチャンスは平等に与えられています。一歩踏み出す勇気と努力を持てるように願うばかりです。

特に今年は、コロナの対策に神経をとがらせ、そのほかのことに目が行き届かなくなりがちな世相でした。多くのこころ配りと愛情で人間が人間を育てる環境づくりがなされることを願ってなりません。その助けになるべく我々宗教者がどう関りを持ち、人々の助けになるのか模索するばかりでございます。

合掌 輝空談

冊子ハルメク こころのはなし
  作家寮美千子さんと考える「音に出す言葉の力」より
※いずみ原稿枚数、文字数の関係により、原文の一部省略を致しております