泉輪 令和3年12月



未来への思い


寒風の吹き荒れる時分となりました。
青く澄みきった青から深い青に変わる鐘崎の海が、冬の到来を教えてくれております。
その上、十二月というだけで何となく慌ただしく、寒さに首をすくめながら、皆さまも足早に日々を過ごしておられる今日この頃なのではないでしょうか。

さて、今日のいずみは面白い絵本のご紹介です。
長男弘円の短大で教材として使った本のようです。
タイトル「ふるさと60年戦後の日本と私たちの歩み」です。

戦前から戦後、そして現代までの人々の生活の移り変わりを追っていった絵本でございます。

皆さま方檀家様のご年齢も、この戦前、戦後のあたりを懸命に生きてゆかれた方が大半で、その時代背景に共感される方も多くおありかと存じます。
この絵本の挿絵から幼き頃、若かりし頃の様子を思い出し、更には明日への活力として下されば幸いです。

戦後すぐの一九四〇年代、電気ガス水道のインフラは整備されておらず、釣瓶で井戸水を汲み、川で洗濯、薪をくべて釜で煮炊きをする時代でございました。

それが、一九五〇年代に入ると電気が通り、水道が完備され、道路も整備し始め、河川工事も取り行われる高度経済成長へと向かっていくのです。

そんな賑やかな活気の中、いち早くその流れに乗るご家庭が出てまいります。
逆に世の中のそんな流れをよそに、まだ、昔の営みを守りながらのつつましい暮らをするご家庭もあり、ばらつきが出始めるのもこの時期の面白みです。
この挿絵の右中央に描かれております山田さん宅は、どこよりも早くテレビを取り入れ、村内一番のハイカラ家庭だったとうかがえます。
この手のテレビ話は皆様のご近所でも、「〇〇さんとこテレビが来た!」と村内が集まるほどの地域のヒーロー的存在のご家庭があったことでしょう。

また食料物資も自給自足、物々交換の食料事情から、商売が成り立ち、個人商店で買い物をする風景、それが月日とともにスーパーやデパートの大型ショッピングモールへと移行して行きました。ある一軒の様子を目で追うと、庭先は畑であった様子が、道路拡張にともない最後はその家自体がなくなっていきます。
更に奥深く物語を見つけてみると、小さかった子供が大きくなりお嫁さんになって嫁ぐ様子や、子供を連れて里帰りする様子と生活環境の変化だけでなく時間の流れも同時にわかるのもこの絵本の醍醐味ではないでしょうか。

そして最後の未来図では、近代化に向かい自然をコンクリートのビルに作り替えていたことを「善し」としていたはずが、畑を作り木工細工の手作業をするという自然の中での喜びを味わうようになり、昔に帰るような様子が描かれています。

人々はどこに幸せを求めてきていたのでしょうか。
幸せをつかむために努力邁進してきていたはずです。
その最終の幸せが昔に返り自然と共に暮らすことを選ぶのでしょうか。

戦争という悲惨で決して繰り返してはならない暗い歴史は、近代資本主義だけを伸ばし発展してゆく中、自然災害、コロナと、人間ではどうすることもできない自然の牙を戒めにし、自然との共存を選び生き抜いていくことを最終の考えとしていくのでしょうか。

未来はわかりませんが、数十年の時が流れようとも、絵本の中で神社だけは姿を変えず、神社仏閣を必要としている人々の姿に安堵するのは私だけではないでしょう。

皆様には一番幸せだった戻りたい過去の時代がございますか?これから望み描く未来はどんな未来ですか?

年末になり、この一年を回顧するだけでなく、戦後から現在まで、そしてこの先の未来までをも予測、展望し、想像する力をこの絵本に頂いた私でございました。
そして、この世のだれもが、いついつまでも幸せであってほしいと思うばかりでございます。

皆様の未来の幸福を願い合掌 
輝空談