泉輪 令和3年10月 秋彼岸



声を感じて


九月に入り、朝夕の涼しさを感じるようになりました。残暑が全く無くなったわけではないのですが、時折感じる涼に、秋の気配に、安堵と喜びを感じます。
そんな季節の変わりゆく中、コロナ蔓延に伴い一年延期されていた東京2020オリンピック、パラリンピックが開催されました。
コロナで様々な規制を強いられ、選手の皆様もコンディションを整えるのは大変なことだったでしょうし、世の中がコロナに神経をとがらせ、オリパラ開催に批判的な意見もある中、競技に集中することは並大抵ではなかったことでしょう。

そんな選手の心中をよそに、いざオリパラが始まってみると、金メダル有力候補の選手がメダルを逃せば落胆し、歴史を塗り替えるメダルを取れば歓喜し、テレビの前の我々は、本当に無責任なものです。

選手のこの五年間の努力に思いをはせ、感動をもらいながら競技観戦を致しておりますと、選手の方々が、自分流の声やポーズをとる姿を目に致します。
「おりゃ〜!」「うぉ〜〜〜!」と特有の声を出してプレーをされています。その声のことを脳科学の中で「オノマトペ(擬音語・擬態語)」というそうです。そのオノマトペには大きな効果をもたらす作用があるらしく、精神のリラックスや、やる気の向上などがあげられ、スポーツの結果を大きく作用するそうです。
また、人間は生命科学上、通常百%の力を出すことはなく、三十〜四十%の余力を残して運動しているとされ、声を出すことで、その抑制力が取り除かれ、隠れていた潜在能力が引き出されることが分かってきました。火事場の馬鹿力などが典型なのではないでしょうか。

また別の分野で、読書にも声を出すことで様々な効果があるようです。
音読は、自分で自分の声を聞くこととなるので、視覚と聴覚の両方を使い読むこととなり、読解力が上がるそうです。 また脳への影響もあり、脳の前頭前野が刺激され「セロトニン」が分泌されるそうです。

この物質には興奮したり攻撃的になったりする「アドレナリン」を抑える働きがあるため、高ぶった気持ちが抑えられます。音読をすることで、感情のコントロールが可能になるそうなのです。

これでお分かりのとおり、人間の言葉を発する動作で、時にスポーツで良いパフォーマンスに繋がり、時に読書で前頭葉を刺激する脳トレになることが分かってきました。

また、宗教上でも言葉には大きな意味があります。
言葉には魂が宿っている、言霊(ことだま)思想があります。声に出した言葉が、現実の事象に対して何らかの影響を与えると古くから信じられていました。
言霊は、言葉が目に見えない力を持っていることを意味します。発した言葉がある時間を経て、良い方向へも悪い方向へも導くという考え方のことです。誰しも、優しい言葉に慰められ、穏やかになり、非難や悪口を絶えず聞けば、こちらまで重苦しい気持ちになるものです。
言葉は良くも悪くも、人間の心理に大いに影響を与えるのです。

ならば日ごろから意図的に周りに感謝をもって、穏やかな言葉を使い過ごすことを心がけ、言霊を良いように作用するようにしてみましょう。
言霊の第一歩は、神仏への祈りです。一日の感謝と無事を願い、言葉にしてみませんか。神仏の前ではだれも嘘ぶることなく素直な気持ちになれます。
その穏やかな祈りの思いを声にすることで、宿る心の仏心を育みましょう。

人間のできる事なんて、どんなにあがいてみても、ほんのちっぽけなことしかできません。でも全力で何事も成したのならば、あとは天の定めた運命にまかせる、「人事を尽くして天命を待つ」のことわざのとおり、その待つ時の中で、言霊が大きく宿って自分を導いてくれます。そんなことを考えながら、お彼岸のご先祖様と言霊をもって語らい下さい。それが最も大切な、お彼岸の意義だと信じております。 

十念合掌
輝空談