泉輪 令和5年5月



稚児の原石はいずこにあらん


うららかな春が過ぎ去り、新緑が眩しい季節となりました。 皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。

ここ数年、コロナ蔓延のため、様々な規制や制約のある暮らしをしてまいりましたが、ようやく元通りの暮らしが出来つつあるようになってまいりました。
泉福寺でも、お説教会の開催に加え、本年度より「花まつり」も挙行する運びとなりました。新一年生のご家庭からのお問い合わせに、中止の旨をお伝えしなければならなかったここ数年の無念さはひとしおでした。
しかし、ようやく待ちに待った「花まつり」の再開でございます。

小さなお堂

過去の二年間出来なかった思いを払拭するべく、大いに稚児さんたちの健やかなる成長を願い、稚児行列をしたいと思います。
是非とも多くの皆様のご参加をお待ち申し上げる次第でございます。年齢もここ数年の中止時期を考え、小学生までの方はどなたでも参加できるように致します。
泉福寺の檀家様のご家庭だけでなく、ご友人、ご親戚、どなたでも参加できますので、奮ってお申し込みをお願い致します。

さて、今日は花まつりの経験に合わせまして、人の経験値や記憶についてお話をさせて頂きます。  通常、人は脳の海馬(かいば)という部屋に記憶を貯めるそうです。
ただし、その海馬という部屋の記憶は、一ヶ月程で記憶していたものがなくなるとされています。そのため、学習などで得た記憶を安定的に海馬に保存し、ずっと覚えていくようにするには、何度も復習して記憶の上塗りをしないといけないそうです。
それでようやく、長期保存の記憶となるとのことです。

ですから試験前の一夜漬けの記憶では、試験終了と同時に消え去る仕組みがよく分かりますし、皆様も大いにご経験されたことと思います。

ところが、自分が熱心に取り組んでいることや、大好きな事、喜んでやっているときの脳は、海馬に加え、「そくざ核」という脳の部屋も活発に動き、瞬時で記憶を脳に留まり焼き付いてしまうとのことです。
現に、既にすっかり大人になった、いえ、かなりの長寿といっても過言でない檀家の方々が、ご自分が参加された花まつりの当時のご様子を鮮明に覚えておられ、間違うことなく話されるのも、その時の思い出は極上に楽しい記憶として海馬とそくざ核の脳の部屋が活発に働いた証と思われます。

また、似た状況がこの度新聞掲載されておりました。
ある少年が、一九七〇年の大阪万博に参加した時のことです。当時の万博の目玉は「月の石」に宇宙を教えられ、「テレビ電話」に電子機器を実感し、歩く歩道はもう夢の世界だけでないと知りました。

そしてもう一つの目玉が、人間洗濯機「ウルトラソニックバス」です。当時の三洋電機が出展し、卵型の首までつかる湯舟に腰かけると、自動でお湯が張られ、超音波で体を洗う仕組みだったようです。万博開催中、そのパビリオンの前には途絶えることのない長蛇の列ができたとのことでした。
実際にその行列に並び現物を見た少年がいました。
青山恭明さんという方です。当時まだ全家庭にはお風呂がなく、銭湯通いも当たり前な時代で、その人間 洗濯機なる物体に腰が抜けるほど驚いたそうです。
そしてこの先どんな未来がくるのかとワクワクしたと記述されていたのがもう五十三年前の随分昔の話でございます。

その彼が後に、微細な泡を含ませるシャワーヘッド「ミラブル」を手掛ける会社「サイエンス」を設立するのですから、おそらくその大阪万博の記憶と衝撃が海馬とそくざ核に直球の記憶の衝撃を与えたのは間違いないでしょう。
そして再び二年後にまた大阪で万博が開催されようとしております。今度は、青山恭明さんが自身で開発したミラブルシャワーヘッドの技術を生かし、子どもの頃に衝撃を受けた「人間洗濯機」をもう一度作りたいと出展されるそうです。
題して「未来型人間洗濯機」です。 新名称に当時の旧名称の「人間洗濯機」の名を取り入れたところに人間臭さが感じられ大いに親しみと興味を感じさせられます。

今度は「体を洗うだけではなく心も洗う」がテーマだそうで、浴槽内のセンサーで脈拍やストレスを測定するセンサーが搭載される予定だそうです。
時が巡り、過去の大阪万博が未来の大阪万博を担う人材となって世に出るのです。 今回の花まつりに参列される稚児さんも、行列の華やかさが記憶に刷り込まれ、それを生かして何かの「ひらめき」を持って世に出るのも、そう遠くないのかもしれません。
原石はどこにでも誰の傍にもあるものです。
その原石の稚児さんの未来への可能性を切に期待し、ご健勝を願っております。  

       

十念合掌
輝空談