泉輪 令和6年10月 秋彼岸



衣に宿る心の色


台風十号が日本列島を直撃し、大雨や防風、それに伴う水害やがけ崩れと、猛威を振るった台風がようやく立ち去りました。
被害に見舞われました方々には、心よりお見舞い申し上げます。

また一方で、これで少しは涼しくなるかと期待いたしましたが、まだまだ残暑厳しい毎日でございます。
それでも朝晩は、ほんの若干、気温の低下を感じることから、秋がもうすぐ訪れるのかと、願いを込めて待っている次第でございます。

そんな今日この頃ですが、どんな季節でも朝は朝ドラに限ります。日本初の女性弁護士、三淵嘉子(みぶち・よしこ)さんをモデルとしたNHK連続テレビ小説『虎に翼』が放映されているのです。我が家も欠かさず楽しく拝見致しております。
このドラマは、戦前戦後の法曹界のドラマにて、オープニングなど随所に法廷シーンがございます。その際に着用している衣装を、「法服・ほうふく」と申すもののようです。

海外の古い法廷シーンのドラマや映画で、中世に舞い戻ったような白いカツラとガウンのようなものを身にまとった俳優たちが 出てまいります。
その法廷での衣装を 日本流にアレンジし、ユニフォーム化 したものが当時の法服のようでござい ます。

海外法廷での衣装
海外法廷での衣装

日本では、戦後整備される日本国憲法 制定より随分前の、明治二十三年から 着用されていたそうです。裁判所構成法という法律が定められ、これにより、判事、検事、弁護士の三者は法廷で法服・法冠を着用することになったとのことです。
法服については、弁護士が白線で唐草が刺繍されていたのに対し、判事は紫色、検事は赤色で、皇室の紋章とされる桐花が刺繍されていました。
裁判官の紫は高貴な者が身に着ける色であることから尊厳を、検察官の赤は赤誠(偽りのない心)を、弁護士の白は潔白をあらわしているそうです。
この三色は、現在の司法修習生のバッジの色にも採用されているとのことです。

しかし、明治維新により、一気に洋装化が進んだ当時では、導入された法服が極めて奇妙なものに見えたようです。

法服を制定したのは山田顕義(やまだ あきよし)で、日本法律学校(現・日本大学)を創立し、のちに第一次、伊藤博文内閣において初代司法大臣に就任するなど立法に携わる人物でした。そんな山田大臣は、諸外国で法服を用いて法廷の威厳を示していることに感銘を受け、わが国でもこれにならおうと、当時の東京美術学校(現・東京藝術大学)の黒川真頼教授に法服の考案を依頼したのです。
そして、そのイメージは、西洋かぶ れにならないように、日本らしさを出したものにしたいという意向から、「聖徳太子の着用せし如き」というイメージで奈良調のデザインが採用されました。
先ほど申しましたように、世の中は一気に西洋化が進んでおりましたので、出来上がりました当時の法服は、いささか時代錯誤に感じられ、閻魔大王のようだと揶揄されたようであります。

また、判事、検事、弁護士の法服は、自腹だったようで、法服が制定された当時の一着の金額が十一円くらい、現在でいえば二十万円前後とかなりの高額となり、弁護士、判事・検事といえども法服にかかる費用がそれなりに重くのしかかる負担であったものと予想されます。

戦後、最高裁判所が発足すると、昭和二十四年に現在の裁判官が着用している法服が制定され、法冠の着用も廃止されました。

現在の法服は、はとバス社章、富士銀行マーク、防衛庁自衛官階級章などをデザインしたことで知られる東京美術学校の高田正二郎教授がデザインしたものと言われており、以降、私たちが良く目にする、シンプルなガウン姿となったのです。

デザインは変わっていけども、裁判官の紫は尊厳さを、検察官の赤は偽りのない心を、弁護士の白は潔白をあらわし、その精神は今も色の中にこめられるメッセージとして生き続けているのです。

黒衣(こくえ)
黒衣(こくえ)

因に僧侶の衣にも様々な色が用いられております。
まずは黒い色の黒衣(こくえ)、この衣は僧侶の身分や経験にかかわらず、どのような方でも着られる衣となっております。
次に緑色の衣、となりますが、黒が黒衣なら緑の衣は緑衣となるはずのところですが、緑の衣は香衣(こうえ)ともうし、僧侶資格を取得するために必要なことを履修した上、修行を重ねた僧侶に与えられる衣です。
更に修行を積み重ねますと、紫の衣となり、さらにさらに高僧になりますと、緋色という赤っぽい色となりますが、私のような愚僧は、紫どまりでございます。

浄土宗をお開きになられた法然上人は、生涯黒色の黒衣を着用し続けたと言われております。階級や権力の誇示の為に衣の色を見せつけ るのではなく、生涯一僧侶として徹する法然上人の姿勢に 考えさせられるばかりでございます。

今のお寺の世界では、年齢や執り行われる儀式によって必要な衣や袈 裟が定められ、一般的な言葉で表しますと、正装、準正装、などでお分かりいただけるかと思いますが、決められたものを用いるように定められております。

しかし、どのようなものを身にまとおうとも、 心は常に原点の法然上人の黒衣に立ち返り、初心に戻らねばと思っております。

このところ、長男の列席儀式法要が多くあるため、なおさら、初心に戻れと、長男の横顔が申しているように感じる今日この頃であります。

十念合掌
輝空談